Eコマースサイトの立ち上げから軌道に乗せるまで

長引く新型コロナウイルス感染症の影響で、小売店や卸売業のお客様からEコマースについて多くのお問い合わせをいただいています。政府もウイズコロナ社会の主要対策としてデジタル化を推進しており、Eコマースに関する申請は補助金の獲得確率も高くなっています。

コインバンク株式会社では、経営デジタル化の一環としてEコマースの立ち上げ・運用のコンサルティングからサポートも行っています。

本記事では、Eコマースと実店舗のメリット・デメリットに加え、立ち上げから軌道に乗せるまでの概要を解説します。Eコマースは安価に始められるとはいえ、しっかり軌道に乗せるには実店舗と同レベルの苦労があることをご紹介したいと思います。

目次

1.Eコマースと実店舗のメリット・デメリット

2.Eコマース立ち上げのフロー

3.安定運営(年商3000万円・限界利益30%)達成まで

4.安定経営に向けた業務一覧

5.Eコマースを始めるために

1.Eコマースと実店舗のメリット・デメリット

すでに実店舗経営をされている方は、お知り合いでEコマースを運営している経営者をご存じかもしれません。しかし、実際にEコマースサイトを立ち上げるとなるとわからないことも多く、実店舗との違いがはっきりしないとモチベーションも上がらないものです。そんな方のために、今回は衣料品の卸売業社のクライアントを例に話を進めていきます。

そもそも、実店舗とEコマースの特徴をはっきり認識することから始めましょう。特に、実店舗を運営されている方は、自分の店舗の運営状況を踏まえたうえでEコマースにどんなメリットとデメリットが生まれるのかをまとめることから始めてください。難しいと感じる場合は、弊社の担当がお伺いしてクライアントに認識していただけるように資料を基にお話しいたします。

表1は例です。この時点では大まかにイメージを文章化します。実際は十分な利益を期待できると思えるまで、より詳細を分析していきます。この例では、卸売業を営まれるクライアントが、実店舗を運営するときに何が必要かということを考えたものの一部になります。

このように大まかな比較項目を上げた後、より具体的に数値化してコストと時間を見積り、期待できる利益を算出します。この段階で重要な点は、苦労するであろう点を考えたうえでモチベーションが維持できるかを判断することです。当然、うまくいかなかったときの撤退基準も明確にしておきます。

表1 Eコマースと実店舗のメリット・デメリット

店舗立ち上げ

実店舗

・メリット

立地次第では、広告なしで集客ができる

・デメリット

店舗維持費が高く、内装の変更にも時間とコストがかかる

Eコマース

・メリット

店舗維持費が安く、内装(サイトデザイン)の変更もやり易い

・デメリット

集客(広告)をしないといつまでたっても売り上げが立たない

顧客対応

実店舗

・メリット

購入されなくても、来店者と店員がコミュニケーションをとれる

・デメリット

店員が必要で、営業時間も限られている

Eコマース

・メリット

店員不要で24時間営業ができる。商圏が日本全国になる。

・デメリット

アクセス(来店)があっても、購入されないとコミュニケーションがとれない。ライバル店が日本全国(ウェブ上)になり、競争が激しい

商品管理

実店舗

・メリット

商品だけでなく、店の雰囲気で集客できる

・デメリット

店舗と倉庫が必要で、それぞれ管理コストがかかる

Eコマース

・メリット

倉庫(商品棚)だけで済むので、管理コストを抑えられる

・デメリット

アクセスは商品ページからが多いので最初の来客を得るのが難しい。商品の実物とEコマース上の画像の間にイメージの差異が発生し、トラブルの可能性もある。


 

2.Eコマース立ち上げのフロー

Eコマース運営のメリット・デメリットと取り組む時間とコストが固まり次第、立ち上げフローの達成を目指し行動に移ります。

図1はEコマース立ち上げの流れ図です。「立ち上げ」で設定する目標は、最初の売上ではなくリピーターの獲得になります。Eコマースを始めるとき、立ち上げの達成ポイントを最初の売上にする場合が散見されます。しかし、最初の売り上げは既存のお客様にEコマースサイトで買い物をしてもらうだけでも達成できてしまいます。長期的に運営することを考える場合、Eコマースサイトではじめてお買い物をしたお客様が、もう一度お買い物に来るということが重要になります。

Eコマース立ち上げの流れ図
図1.Eコマース立ち上げの流れ

図1の各項目の詳細を表2にまとめました。細かい部分は店舗次第で調整が必要ですが、これだけでも多くの業務が発生することをお判りいただけると思います。

 

表2 Eコマース立ち上げの流れ項目詳細

 
ステップ1 店舗・商品企画

Eコマースストアのコンセプトを決め、売り出す在庫と新入荷商品の選定を行い、販売計画を立てる

ステップ2 仕入れ

取り扱いが簡単で安価なものから始める。仕入れ先の開拓が必要な場合、商品・販売企画を活用して仕入れ活動をする

ステップ3 ECサイト作成

あれば在庫から登録していく。商品数によるがサイト登録から立ち上がるまで2か月程度かかる。商品をアップしたら順次プロモーションをかける

ステップ4 販売促進

立ち上がりは集客だけで3か月必要と考える。広告費を割けば時間短縮になる。

ステップ5 受注

受注に対しサンクスメールを送り、購入客に安心感を提供する。

ステップ6 梱包

出荷日を確認し、計画通りに同梱物をそろえ、誤発送のないようにする

ステップ7 出荷

出荷通知メールを送る。出荷は受注から1~2日以内を心がける

ステップ8 アフターフォロー

商品到着のころ合いに確認メールを送る。このメールでは広告は少なくし、アフターサービスを強調する

ステップ9 リピーター獲得

リピーターを獲得できて立ち上げ完了とみなす。以降、ステップ1から8を改善しながら売り上げ拡大を目指す


 

3.安定運営(年商3000万円・限界利益30%)達成まで

Eコマースは初期投資と人手が少なくても始められる点が大きな特徴の一つとなります。しかし、Eコマースの立ち上げフローでも紹介したように、業務量は実店舗に引けを取らないほどあります。そのため、立ち上げから安定した運営を続けていくためにはある程度の売り上げが必要です。

その売り上げ目標として提示させていただくのが年商3000万円・限界利益率30%です。限界利益(率)は仕入れと販売にかかる経費を売り上げから差し引いた利益になります。

限界利益 = 売上 ー (仕入れ代 + 販売経費)

限界利益率 = 限界利益 / 売上

これには人件費と固定費が入っていません。つまり年商3000万円で限界利益率30%であれば900万円の粗利益が得られ、そこから従業員の給料と固定費やその他経費を捻出することになります。実際、一人の従業員に全業務を賄ってもらうのは難しいので、立ち上げフローで示したステップ1から8を分業し、最終的には一定割合を外注します。

スタートから年商3000万円までの道のりは平坦ではありません。各段階で取り組む内容を大まかにまとめたものが表3になります。なお月商は12倍して年商に換算してください。

表3 月商の各段階で取り組む業務と方針


 

苦難の時代 
月商~30万円

店舗の商品や在庫をEコマースで出品しながら、Eコマースで売れる商品を見つける。市場調査を進めEコマースに特化した商品も見つける

苦難の時代 
月商~50万円

Eコマースで売れる商品を軸に、仕入れからアフターフォローまでの業務を確立・安定化する。ブランド力の弱い店舗の場合、単価が低めになるので、梱包・出荷のルーティンが一人では難しくなる。そのため、売り上げ50万円以上は担当者を2名にする(二人とも兼業でよい)か、外注する

軌道に乗る 
月商~100万円

商品企画・販促・コスト改善に力を入れるため部分的に業務を外注する(ルーティン業務外注や3PLの活用)

軌道に乗る 
月商~300万円

外注業務を増やしながらもEコマース専業スタッフを拡充する。販売促進コスト(主に広告)のコントロール次第で、利益率が大きく変わるようになる

独立店舗化 
300万円以上

Eコマースだけでも事業として成り立つようになるので、目標を決めて運営に専念する


 

Eコマースサイトを立ち上げる場合、モール型と自社ECで迷うことがあります。

Eコマースの中でもモール型なら、初月から売り上げを立てることも期待できます。しかし、ブランド力が弱くEコマース向きの商品でない場合、3か月以上売り上げ無しになることも珍しくありません。

一方、自社ECはサイト立ち上げだけで3か月以上かかります。最初の売上も実店舗の顧客をセールなどで誘導しない限り、6か月間はアクセスアップに費やし売り上げは立たないことになる覚悟が必要です。立ち上げコストもモール型の数倍から十数倍かかります。


これらを加味すると、初めてEコマースを開店する場合、モール型で軌道に乗せるところまで集中することをお勧めします。売り上げが十分に立ったら、利益コントロールやブランド確立を目的として自社ECを立ち上げると、資金が足りなくなるなどの理由であきらめることにならずに済みます。

このように、Eコマースで新規顧客による売り上げを立てる障壁は高いと思ってください。

4.安定経営に向けた業務一覧

Eコマースサイトを無事に立ち上げた後も、安定運営の為には多くの業務を改善しながら行う必要があります。実店舗と同じ業務もあればEコマース独自の業務もあります。表4にEコマース運営業務をまとめました。業種によって力を入れるべき項目が変わってきますが、物販のEコマースサイトの必要項目はおおむね入っています。

外注可否も業種や事業規模によって変わってきます。しかし、物販サイト運営で戦略的・中核的位置づけの業務は外注不可としています。

表4 Eコマースサイト運営業務の分類

区分 戦略項目 個別項目 外注可否 内容
バックエンド 商品情報登録 ウエブ登録 JAN、商品名称、価格、発売開始日時等の最低限販売に必要な情報から商品詳細説明、スペック情報など
オフライン作業 商品画像の撮影、画像サイズ加工、ファイル命名、および、商品の採寸
受発注管理 商品管理 注文前の商品の保管管理、ピックアップ/梱包/納品書・送り状作成/宅配業者への荷渡/発送完了メール送信、未引き当て注文の状況確認や商品手配等
顧客対応 不可 購入者へのフォローや問い合わせへの対応を行う
店長業務 売り上げ・コスト管理 不可 ECサイトでの売上やかかっているコスト、および人的リソースの管理、サイトのアクセス解析や目標値設定や達成度管理など
ECサイト運用計画 不可 不具合対応や新機能追加等ECサイト運用の計画(実務は外注可)
フロントエンド 市場調査/販売促進 調査・企画 不可 商品の販売促進の為に行うプロモーションや販売企画の立案
得意先調整 不可 他店やメーカーとのタイアップ、外部サービスやツールなど検討・調整・活用など
集客 SEO、リスティング、リターゲティング、メルマガ、アフィリエイトだけでなく、ソーシャルやコンテンツマーケティングなど
販促 マーケティング施策に伴うサイトの導線設計やバナーの設置など、訴求力のあるページに作り変える
購買 市場調査ベースの商品企画 不可 お客様のニーズにあった商品をセレクトし、その商品を作る・仕入れるための企画
仕入れ管理 不可 商品の販売予測に基づいた商品の仕入れ
販売管理 不可 価格調整(在庫数やトレンドから商品を見切るなど)したり、商品の入れ替え

5.Eコマースを始めるために

本記事では、Eコマースの特徴から安定運営までの概略を紹介しました。Eコマースによる物販は初期投資を抑えられる一方、実店舗とは異なる運用業務が多数あります。独立店舗として運営できる売り上げを達成するにはしっかりとした準備が必要です。

Eコマースサイト立ち上げから安定運営までの大まかな内容を紹介しましたので、今後の記事では実例を交えて各項目の解説を進めていきます。

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