中小企業の事業継続計画(BCP)策定の重要性とメリットを解説
中小企業の事業継続計画は、企業の安定性と持続性を確保するために欠かせないものです。承認方法や費用、労力について理解し、中小企業に適した計画を策定することが重要です。
目次
BCPは自社だけでなく関係者も含めて安心して事業を進めるために有益
BCPにおける非常事態とはどんなものが考えられるか?
BCPを策定しておくことで、非常事態が起きた場合でもスムーズに事業継続のために行動できることは先にお伝えした通りです。
では、事業継続が危なくなる非常事態とはどんなものが考えられるのでしょうか?
一般的な例を5つ挙げると以下のようになります。
1.自然災害
地震、台風、洪水などの自然災害が発生した場合、施設や設備の被害、ライフラインの断絶、従業員の安全確保などが事業継続に影響を及ぼします。千葉県では2018年の台風、さらにここ数年国内の自信も続いています。弊社のクライアント様では、2018年台風の停電で苦労されたためBCPを導入しています。
2.人為災害
火災、テロ、事故などの人為的な災害が発生した場合、施設やデータの損傷、従業員の避難、顧客とのコミュニケーションの中断などが事業継続に影響を与えます。
3. IT災害
サイバー攻撃、データベースの障害、ハードウェアの故障などのIT関連の災害が発生した場合、業務の中断やデータの損失が問題となります。近年はクラウド化でPCにウィルス対策ソフトを入れなくても良いというような風潮も出てきていますが、悪意の攻撃は弱いところを狙ってきますので注意が必要です。
4.感染症災害
新型コロナウイルスのような感染症が流行した場合、従業員の健康管理、業務の遠隔対応、顧客との接触の制限などが事業継続に影響を及ぼします。さらに、コロナ禍の影響でインフルエンザなど様々な感染症が増えているようです。連鎖的に免疫に影響が出る点でも、個人、会社共に協力してケアが必要でしょう。
5.サプライチェーン(供給網)の異常
サプライチェーンの一部が途切れるなど、以上を起こした場合、原材料の供給、製品の流通、生産ラインの停止などが事業継続に影響を与えます。
ここでは5つの例を上げましたが、事業によっては他にもあるかもしれません。これらの非常事態に備えて、事業継続計画(BCP)を策定し、適切な対応策を講じることが重要です。
BCPは事業継続の3大要素について計画を策定します
従業員の安全確保、社会的信頼性の向上、そしてビジネス機会損失の低減―これらは中小企業における事業継続計画(BCP)の柱です。従業員の健康と安全を守り、社会的な信頼を築き、災害や非常事態においてもビジネスを継続できる体制を整えることが求められます。
それぞれについて具体的なメリットを紹介していきます。
3大要素の1.社会的信頼性の向上のため
適切なBCPを公表することで、社内外のステークホルダー(利害関係者)に危機管理能力や企業価値をアピールできます。
1.ステークホルダーへの信頼向上
BCPを公表することで、従業員、顧客、株主、パートナーなどのステークホルダーに対して、企業の危機管理能力や誠実さをアピールできます。信頼を築くことで、ビジネスの持続性が高まります。また、新たな紹介を得るとき、BCP策定企業ということは評価を上げる要素となります。
2.施設・設備の信頼向上
BCPを公表することで、施設や設備の適切な保守・管理が行われていることを示すことができます。これにより、地域の避難候補先などに指定されれば、営業地域での知名度と信用の向上効果も生まれます。
3.ビジネス機会損失低減に対する信頼性の向上
BCPを公表することで、災害や非常事態においてもビジネスを継続できる体制を整えていることを示せます。これにより、何かあっても取引の継続が見込めると判断され、取引先が優先度高く取引を行うことが見込まれます。
3大要素の2.従業員の安全確保のため
BCPでは、従業員の安全確保をどのように行うか?といった計画も重要視します。そのため、以下のようなメリットが得られます。
1.ステークホルダー、特に従業員との信頼関係向上
BCPの公表は、従業員に対する安心感を提供します。従業員は災害時にも適切な対応が取られることを知り、安全を確保できる信頼性のある組織で働いていると感じます。新入社員を募集するときも、いざという時のことをしっかり考えている良い会社という印象を持ってもらえます。
2.関係者の施設・設備に対する信頼向上
BCPの公表では、施設や設備の適切な保守・管理が行われていることを示すため、従業員は安全な環境で働けることを認識でき、安心して業務に取り組めます。また、出退勤の途中や職場の近くで緊急事態になった時、すぐに駆け込める場所を知っているということは、長い年月働くインセンティブになります。
3.ビジネス機会損失低減に対する信頼向上
BCPを公表することで、顧客や投資家は信頼性の高い企業に投資したり、取引を継続したりする傾向があります。従業員にとっても、被災した後、収入が途切れることは、精神的・金銭的に非常に厳しい状況を生んでしまいます。BCPで、すぐにビジネスが回復し、仕事と収入が継続できることは従業員が職場を選ぶ動機として重要な要素となります。
3大要素の3.緊急事態時のビジネス機会損失の低減のため
BCPをあらかじめ定めることで、災害時にビジネス機会の損失を最小限に抑えることができます。
1.取引先や投資家への信頼向上
BCPの公表により、災害時でも信頼性の高い企業として取引を継続したり、投資を行ったりする意欲が高まります。このため、災害後のビジネス復帰が早く行え、復帰が遅れたり、回復の見通しが立たない競合他社の取引を取り込むこともできます。
2.施設・設備の稼働継続による機会損失の回避
BCPの公表は施設や設備の適切な保守・管理が行われていることを示すため、非常事態で競合が商品やサービスを提供できなくなった時、自社の設備を借りに来たり、取引先を紹介してくれることもあります。これによって、非常事態の対策が出来ていない競合他社に対して、非常事態後のシェア獲得に寄与することも考えられます。
3.ビジネスの継続性による機会損失低減で信頼が向上します
BCPをあらかじめ定めることで、災害時にビジネス機会の損失を最小限に抑える計画が策定されているため、取引再開および継続の準備がいち早く整います。これにより、自社のビジネス継続性を維持できるうえ、BCPの策定を知る顧客へ、優先的な取引継続の打診が行いやすくなります。
BCPが普及しないのはぜか?
上記の様に多くのメリットがあるBCPですが、まだまだ普及しておらず、導入企業はようやく3割を超えた程度のようです。なかなか普及が進まない理由について調べた結果、5つほど要因が上がりました。 事業継続計画(BCP)に対する企業の意識調査(2023年)東京商工リサーチ
BCPが普及しない原因
1.BCPの必要性を感じない
一部の企業は災害が起きることを想定せず、BCPの重要性を理解していない場合があります。ここ数年、弊社のクライアントにおいても、自然災害に対する意識は高まっていますが、ITやサプライチェーンに関しては実感のない中小企業経営者が多いように感じます。
2.策定の仕方がわからない
BCPの具体的な策定方法や手順が不明確であるため、進めることが難しい場合があります。各自治体で講座を開催しているようですが、なかなか足が向かない経営者が多いというのは、間違いなさそうです。
3.法律・規則がない
BCP策定を義務付ける法的な規定は存在しません。そのため、必要性ややり方がわからない企業は、自発的に進めるモチベーションが持てないようです。
4.人手が足りない
BCPの策定には専門知識や自社のリソースが必要であり、人手不足が進行を妨げる要因となります。弊社では家族経営のクライアントも多いので、家族の緊急避難時のルールを決めることも含めて策定してしまうことをお勧めしています。これは、緊急時の連絡を取る準備ができるだけでなく、BCPに家族をメンバーとして登録することで、自治体などの公共機関がご家族を見つけるきっかけにもなるというメリットがあるからです。
5.そもそもBCPを知らない
そもそもBCPの存在や目的を知らない企業もあり、普及が進まない原因となっています。この点は、対策の部分でも記していますが、何かしらのメリットを提供できるようにすることが、関心を呼び起こすきっかけになると考えられます。
以上の様に、BCPの普及が進まない理由は多岐にわたるようです。これに対し、政府や自治体も様々な活動をしているようです。
BCP普及のための対策
上記でBCPが普及しない理由を5つ紹介しました。これに対し、国や自治体も対策を講じています。こちらも5つまとめましたので、BCPに着手する動機になりそうなものを見つけてみてください。
1. 啓発活動の強化
政府・自治体は、BCPの必要性やメリットを広く認知させるために、セミナーやワークショップを開催し、情報発信を行っています。基本的には自治体で年数回のセミナーを行っているようです。商工会議所や地元企業の集まりでアナウンスされていることが多いので、聞いてみれば案内されるでしょう。
2.教育・トレーニングの提供
BCP策定のスキルやノウハウを提供する教育プログラムを実施し、企業のスタッフを育成しています。こちらは人手の足りない事業者様には手を出しにくい内容と言えます。4.に示すように、専門家に依頼することを含め、兼務のスタッフ、もしくはご家族を担当してもらうのが良いでしょう。
3.法的規定の整備
政府や業界団体がBCP策定を奨励する法的な規定を整備し、普及を促進することも進められています。法的強制力が入ると、先ほど紹介したメリットが減って、BCPを策定していないデメリットが強くなるので、対策としては良し悪しとは思います。
4.専門家の協力
BCPの策定には専門知識が必要なため、専門家の協力を得て進めることも重要です。弊社もお手伝いできますが、地域の商工会議所で相談するのが一番手軽だと思います。
5.成功事例の共有
BCPを策定し実際に活用している企業の成功事例を共有し、他の企業に示唆を与えることも行われています。近年の災害増加により、BCPに注目が集まりやすくなっていますから、復興の際にアドバンテージをとれる実績が知られれば、興味を持つ事業者様も増えると思います。それに加え、災害に合わずともBCP策定による金融的なメリット(融資や金利の優遇、補助金の加点など)が事例として知られれば、普及も進むのではないでしょうか。
BCPの普及を進めるためには、これらの対策を総合的に実施することが重要です。次に、BCPの成功事例と特典についてご紹介していきます。
1.本田技研工業株式会社熊本製作所
熊本地震(2016年)により施設全般に被害を受けた本田技研工業株式会社熊本製作所は、復旧計画を迅速に立て、生産ラインの優先順位に従って復旧を進めました。その結果、5ヶ月後には完全復旧を果たし、BCPの重要性を示しました。
2.Coca-Cola(米国)
こちらは海外の事例です。世界最大の飲料会社であるCoca-Colaは、ハリケーン・カトリーナ(2005年)による洪水に対してBCPが効果的に機能しました。BCPの策定により、生産拠点の被害を最小限に抑え、事業を継続できる体制を整えました。
3.オリックス株式会社
新型コロナウイルスの蔓延により経済が打撃を受けた中、オリックスは台風対策として整備していたテレワークを活用し、BCP対策を成功させました。社員の働き方の多様化を許容する環境整備がBCPの有効な手段となりました².
1.税制優遇
「事業継続力強化計画」の認定を受けた中小企業・小規模事業者は、災害への事前対策を強化するために必要な防災・減災への設備投資に対して、特別償却20%とする税制優遇があります。具体的な対象設備には機械装置、器具備品、建物付属設備などが含まれます。
2.金融支援
「事業継続力強化計画」の認定を受けた中小企業に対し、信用保険の保証枠を別枠で追加します。また、土地に係る設備資金の貸与金利を引き下げる措置もあります。
3.補助金の審査加点
「事業継続力強化計画」の認定を受けた中小企業・小規模事業者が、補助金採択にあたり加点措置が受けられるなどの措置が検討されています。BCP策定による審査加点で、補助金の取得がサポートされます。現時点では、ものづくり補助金において加点措置が取られています。
これらの特典は、中小企業がBCPを策定し、事業継続力を高めるための支援として重要です。これ以外にも、各自治体が独自で補助金・助成金や金融優遇措置を出していることもありますので、ご相談ください。
1.基本方針を策定する
BCPの目的を明確にします。特に経営層が参加することが重要です。会社の規模に合った運用体制を考える必要があります。
2.運用体制を決定する
経営層が率先して参加することで運用体制を整えるリソースを確保します。こちらも、運用体制の規模を会社の規模に合わせて設定することが重要です。家族企業の場合は、ご家族も参加するようにしましょう。
3.中核事業と復旧目標を設定する
中核事業を選定し、復旧目標を設定します。単一事業の事業主の方は、事業の分析を進めます。
4.財務診断と事前対策を実施する
財務的なリスクを評価し、対策を講じます。建物や自動車の保険、すぐに確保できる現金など、専門家でないと見落とすことも多い項目です。
5.緊急時の対応の流れを決めておく
緊急時の対応プロセスを明確にし、全従業員に共有します。基本的なモデルは中小企業庁に用意されているので、どれで対応するかをしっかり話し合うことが重要になります。
6.定期的に訓練を行いブラッシュアップする
BCPの運用を定期的に訓練し、改善点を洗い出します。BCPの特徴として、訓練を定期的に行う点があげられます。地域で定期の防災訓練をしている感覚で、策定した内容を試してみましょう。また、この時に直近で起こった事例を用意し、参加者で話し合ってみることもお勧めします。