小規模事業者持続化補助金の採択動向から読み解く、申請テーマのヒント【業種×ジャンル ランキング付き】
令和3年度から5年度にかけての小規模事業者持続化補助金(一般型)では、累計数万件にのぼる採択実績が積み重ねられました。今回はその直近3年間の採択結果をもとに、「採択されやすい業種」「人気の取り組みジャンル」、そして「業種×ジャンルの掛け合わせ」という3つの視点から、採択傾向を読み解いていきます。
ただし先にお伝えしておきたいのは、このランキングが今後の採択を保証するものではないということです。
なぜ“採択されやすいジャンル”は変化するのか?
令和6年度の「新事業進出補助金」では、公募要領に特定ジャンルへの応募が集中し、過剰投資となった場合には採択調整を行うという一文が盛り込まれました。これは、過去の制度(例えば事業再構築補助金)において、一部ジャンルに質の低い申請が殺到し、採択のバランスが崩れた反省を踏まえた対応です。
つまり、いくら過去に採択実績が多いジャンルでも、応募が偏れば今後は調整の対象になる可能性があるのです。
採択実績から見える「今後も有望なテーマ」とは?
それでもなお、政策の方向性と世の中の動き(世相)を加味すれば、注目すべき業種やテーマは見えてきます。
以下のランキングは、令和3~5年度の公募結果をもとにしたものですが、採択数が多い=課題の多い分野、政策的に注目されていた分野という側面もあるため、次の申請計画のヒントとして活用できるはずです。
業種別 採択件数トップ5(推定)
直近3年間(令和3~5年度)における小規模事業者持続化補助金の採択結果を業種別に集計すると、飲食業、小売業、美容・健康関連業、製造業、サービス業(対個人のサービス業)が採択件数で上位5業種となりました 。以下の表に、各業種の推定採択件数(令和3~5年度の累計)と採択率の目安をまとめます。
順位 | 業種 | 採択件数(目安) | 採択率(目安) |
---|---|---|---|
1位 | 飲食業 | 約14,500件 | 約55~60% |
2位 | 小売業 | 約11,500件 | 約60% |
3位 | 美容・健康関連業 | 約8,700件 | 約60% |
4位 | 製造業 | 約5,800件 | 約60%以上 |
5位 | サービス業(BtoC) | 約5,800件 | 約60%以上 |
読み解きポイント: 消費者に直結する業種が上位に集中。コロナ禍による打撃の回復や新たな販路開拓が共通テーマでした。
ジャンル別 採択件数トップ5(取り組み内容)
続いて、採択案件の事業内容を特徴づける「ジャンル」を分析します。小規模事業者持続化補助金の事業計画は大きく販路開拓(マーケティング)と生産性向上(業務効率化)の取組みに分類できますが、実際の採択案件ではこれらを具体化した次のようなジャンルが多く見られました。以下は採択件数が多く(かつ採択率も高い)代表的な上位5ジャンルです
順位 | ジャンル内容 | 採択率(目安) |
---|---|---|
1位 | 販路開拓(広告・チラシ・HP・展示会) | 約60% |
2位 | 新商品・新サービスの開発 | 約55~60% |
3位 | デジタル化・ITツール導入 | 約60%以上 |
4位 | 設備投資・店舗改装 | 約50~60% |
5位 | 非対面型サービスの導入・オンライン化 | 約65~70% ※ |
※「低感染リスク型ビジネス枠」適用時の最大値
読み解きポイント: 本補助金の主目的である「販路開拓」や「生産性向上」に直結する計画はやはり強い。特にIT・非対面化の流れは、政策的にも後押しされてきました。
業種×ジャンル 組み合わせ別 採択傾向(ベスト5)
最後に、上記の業種とジャンルを組み合わせた場合の上位5パターンを紹介します。業種ごとの特性に合った取り組みは採択されやすく、採択件数も多くなっています。以下のトップ5組み合わせは、件数・率ともに優れた成果を示した典型例です
順位 | 組み合わせ内容 | 採択傾向と特徴 |
---|---|---|
1位 | 飲食業 × 新メニュー開発 + SNS・チラシ等の販促 | ニーズ明確。宣伝との連動がカギ。 |
2位 | 小売業 × ECサイト構築 + オンライン販売 | 地方でも成功例多し。早期のデジタル対応が重要。 |
3位 | 美容業 × 新サービス導入(ヘッドスパなど) | 顧客単価向上。競合との差別化がポイント。 |
4位 | 製造業 × 設備導入・新製品開発 | 生産性向上と差別化。試作や効率化が評価対象。 |
5位 | サービス業 × 多言語HPやパンフレットなどの広報策 | 観光・教育分野に好相性。地域連携で加点も。 |
読み解きポイント: 「自社の強み × 社会課題 × 政策トレンド」の掛け合わせが採択の鍵です。補助金は、単なる設備購入や広告費支援ではなく、“経営の意図”を伝える道具であることを意識しましょう。
【第17回公募からの注目ポイント:インバウンド対応を含む建物関連費の特例】
2024年度末に実施された第17回公募では、インバウンド対応の取組みを含意した、建物関連費(改装・内装等)の一部が補助対象として認められました。
これまで本補助金では原則「建物費は対象外」でしたが、訪日外国人向けサービスの導入やバリアフリー化、多言語案内整備など、観光需要対応に資する改装が特例的に認められた点は大きな変化です。
特に、宿泊業や観光サービス業、小売・飲食店などインバウンドを意識した業種にとっては、今後の補助金活用における戦略が広がる契機となる可能性があります。
次回以降の公募でも同様の取扱いが継続されるかは未定ですが、地域資源を活用した集客・売上向上策を検討している事業者にとっては、最新の制度動向を踏まえた申請戦略が鍵となります。
補助金申請のヒントとしてランキングを活用するには?
本記事のランキングは、「どの業種・分野で申請すれば通りやすいか?」を示すものではありません。むしろ、“なぜこの分野が評価されたのか”という背景の読み取りが重要です。
採択調整のリスクがある今だからこそ、過去の成功事例をなぞるだけではなく、「自社らしい差別化」と「地域や時代のニーズへの対応」をどう盛り込むかが問われます。
今後の申請では、この「業種×ジャンル」ランキングをヒントに、独自性ある戦略的な計画を描いていただければと思います。